「惜しい人を失くした」とはよく聞くけれど、この言葉がこんなに当てはまる人は今までいなかったように思います。

天寿をまっとうしたわけではなく、志半ばだから。

歌舞伎俳優の中村勘三郎さんが亡くなった。57歳だったそうです。

ただただびっくりで、webニュースで最初に目にした時は、誤報かと思ったほどです。

私は歌舞伎に関してはド素人で、テレビでのお姿をいつも拝見しているだけでしたが、とても親しみやすく、大好きな方でした。

チャーミングで、真面目で、やんちゃで、粋で、いたずらっ子で、おちゃめで、おおらかで、芯があって、華があって、明るくて、利かん坊で、無邪気で、チャレンジャーで、厳しさと優しさを備え、どん欲すぎるほどどん欲で、いつも目がキラキラしていて、少年のように夢がたくさんあって、それでいていつも何に対しても全力。

そんなイメージ。

いつか必ず人間国宝になる人だと勝手に思い込んでいた。

人柄も素晴らしく、(歌舞伎のことはよくわからないけど)芸も素晴らしく、誰からも愛される人だったとお見受けします。

森光子さんと仲が良く、まるで森さんを追っかけるようにこの世を去られた勘三郎さん。

初期のガン。と言えば、うちの父が初期の胃ガンで全摘をして6年、さらには甲状腺のガンも取って3年程が経ってピンピンしていて、すっかりそのイメージだったので、ひょっこり戻ってこられるもんだとばかり思っていたし、元気に戻ってきてほしいと願っていました。

けれど、私たちが思うよりずっと重たかったんですね。

術後の合併症、特に肺炎ほど危険なものはないかもしれない。

勘三郎さんは、あれだけフットワークも軽く、気持ちも強い人だったから、てっきり「よっ!」っと手をあげて、何もなかったみたいに戻ってくると信じて疑わなかった。

まだ信じられないです。

国葬でもいい。と、うちの母が言っているくらい、それくらいの人だったってことですね。

やり残したことは山ほどあって、本当に無念だったと思います。走り抜けた感はあるし、生き急いでしまった感もあるし、確かに命を削ってでも芝居にかけていたことは、ドキュメンタリーを見ていて容易にわかりました。

でも、2人の息子さんは立派に成長されて、しっかりその遺志を継いでいかれることでしょう。

勘九郎の襲名披露公演中ということですが、亡くなられた当日の口上の映像を、ニュースで見ました。「どうか、父のことを忘れないでください」。涙が止まらなくなりました。

勘三郎さんの生き写しみたいな勘九郎さんはもとより、その勘九郎さんが「頼もしい」とはっきり言い切った七之助さんも、しっかりお兄さんに寄り添って、支えている様子が見え、本当に2人とも立派にお育ちになられたんだなぁと思って、だからこそ、お2人はきっとお父様の無念を背負ってしまうのだろうと。

口上と会見を見ていて、これから中村屋を盛り立てていこうという覚悟を感じました。すごい気迫だった。

立派。としか言いようがない2人の印象です。

たまたまお2人が東京に帰られた時に亡くなったということで、ああ、待っていたのかな、と。

あまりにも大きな人を早くに亡くしてしまった歌舞伎界。勘三郎さんの功績はあまりに大きいものだったと思います。

もっとお年を召して、「勘三郎さんもう充分じゃないか」と言われても「なに言ってんだい、まだまだこれからだよ僕は」なんて言いながら、ヨボヨボになってもチャーミングに活躍されると思っていたのに。そんな姿を見たかったのに。

息子さんたちが気丈であればあるほど、辛い気持ちになります。でも、そうしていないと彼らはきっと耐えられないのだと思う。お父様であり師匠であった勘三郎さんを一番尊敬し、一番近くで見てきた彼らだから。

口上を見ても、勘九郎さんは本当に魂ごと、お父様そっくりだし、七之助さんも、そんなお兄さんを全力で支えていこうという覚悟でいらっしゃる。2人とも、お父様が大好きで、お父様が大事で、お父様の言葉や技術や心をしっかり継いでいかれることと思います。

私は七之助さんと同い年なんですが、本当にしっかりしていて、まさに「父の背中を見て」育たれたのだなと。この年であんなにしっかり舞台をつとめ、マスコミ対応が出来るなんて、やっぱりあのお父様あってのことだと思います。絶対的存在だったのだろうし、これからもそれは変わらないんだろうな。

あんなに非の打ち所がない人も珍しいですよ。一流、というのは、ああいう人のことなんですね。あまりに惜しい人を失くしました。

本当に誰にでも好かれていた勘三郎さんだから、天国でも森光子さんに「あなたまだこっちに来るの早すぎるわよ」とか言われて、笑いながら「でも息子たちがいますから、心配はしてませんよ、へへ」とか言っていそうな気もします。

もしくは「ごめんなさいね、さみしくてあなたを呼んでしまったわ」「森さん、まだ早いですって。僕はまだまだ小僧ですから」なんていう話をしているのかも。

ついつい長くなってしまいましたが、謹んでご冥福をお祈りいたします。

勘三郎さん、ありがとう。でも、さみしいです。
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